SWOT分析の例、NECのパソコン(PC)事業における1980年代と2000年代の比較

SWOT分析の例、NECのパソコン(PC)事業における1980年代と2000年代の比較

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かつては国民機パソコン(PC)とも呼ばれ、国内シェア80%を超えるまでのシェアを確保していたNECのPC事業も、2011年にはレノボと合併し、連結対象から外れました。

そこで、全盛期であった1980年代、事業合併前の2000年代についてSWOT分析し、PC事業のライフサイクル終焉の要因を考えます。

全盛期であった1980年代

NECは、1976年に新設されたマイクロコンピュータ販売部門が、部品としてのCPUを販売促進策の一環として開発したトレーニング・キット「TK-80」がヒットしたことから、パソコン(PC)という製品の誕生につながりました。

1976年の時点では、まだ日本にはPC市場が形成されていない状況で、「TK-80」を販売したNECは、パソコン(PC)登場に対する社会的期待の大きさを知らないまま、手探り状態で無意識的に事業を踏み出したことになります。

そして1979年9月、トレーニングキットを完成品としてケースに入れた「PC8001」が、NECとして初めてのパソコン(PC)となり、その後に下位機「PC6001」と上位機「PC8801」へとラインナップを拡充してきました。

一方この時期(1981年)には、IBMがインテル製16ビットCPUを搭載したPCを発売して世界的に衝撃を与え、IBMが世界標準を目指したのに対し、NECは日本語の高速処理を目指して独自の16ビットパソコン「PC9801」を1982年に発売して対抗しました。

この「PC9801」は、OSにマイクロソフトのMS-DOSを日本市場向けに最適化し、ハードウェア及び主なアプリケーションを自社開発して販売展開するとともに、パソコンを試用できる直営のショールームやパソコン教室、ハードウェア故障を受け付ける修理拠点を全国に展開することで、個人の利用者を拡大してきました。

そしてシェア拡大に伴い、周辺機器及び各種アプリケーションベンダーも増えたことが、さらにシェアを拡大して国内シェア80%を超えるまでになりました。

特に1985年にリリースされたジャストシステム「一太郎」をはじめとする豊富なアプリケーションは、MS-DOSのバージョンアップに対して常に上位互換を確保してきたことも、「PC9801」が国内で確固たる地位を築く後押しとなりました。

また1986年には、商用化されたパソコン通信としては国内最古の分類に入る「PC-VAN(後のBIGLOBE、2014年3月末に売却)」を個人向けに開始しました。

そこで、この期間のNECのパソコン事業のSWOTを整理すると、以下の通りとなります。

  • ・NECが「PC9801シリーズ」を展開してきた15年間は、ハードウェアとソフトウェア開発、販売から保守までを自社で垂直統合することによる「強み」を発揮しました。
  • ・PC市場を創造し、個人を中心にニーズが高まってきた「機会」を捉えてきました。
  • ・また、日本語処理に特化した独自技術を採用することにより、海外のパソコンメーカの参入という「脅威」に対抗することができました。
  • ・しかし、国内市場での成功は逆に海外展開不足となり、さらに個人向けの組織での運営は企業向け汎用機部隊などの他組織と連携した展開ができない「弱み」となって、以降のPC事業に大きく影響することとなりました。

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その後、OSがMS-DOSからグラフィカルなWindowsに移行し、1990年に日本IBMが「IBM DOS J4.0/V(一般的には「DOS/V」)」をリリースしたことにより、国内PC市場も大きく変化しました。

1981年に登場したIBMのPCは設計がオープンであったことで、周辺機器やアプリケーションが多く揃い、日本語にも対応したことで国内外のPCメーカの参入が加速しました。

NECもWindows対応を迫られることになりましたが、Windows対応は過去の豊富なアプリケーションや周辺機器という「強み」を失うことにもなりますが、1995年発売の「PC9801BX4」が「PC9801シリーズ」の最後となりました。

NECが国内PC事業において、一種の「破壊的イノベーション」に見舞われたと考えられます。

事業合併直前の2000年代

1995年にWindows95がリリースされて、PCの事業環境は大きく変わりました。

インターネットが普及し始め、ネットワーク機能を強化したWindows95は個人に加え企業にも導入が加速しました。

NECは、従来の「PC9801シリーズ」の「強み」を継承してきたものの、1997年にマイクロソフトの「PC97ハードウェアデザインガイド」に準拠した「PC98-NXシリーズ」を発表して「DOS-V」機へ移行しました。

以降、「PC9801シリーズ」で築いた製品開発力や保守体制、そしてブランド力を「強み」に、個人向けに加え企業向けに展開してきました。

特にWindowsサーバーが開発され、PCが端末として企業向け導入が増加し、PC販売をNECグループ全体で展開していきました。

しかし、アーキテクチャーがオープン化/統一化され、国内外の多くのPCメーカが参入し、多種多様のPCが販売され、競争は激しくなり、低価格の一途をたどります。

その中、DELLがダイレクト販売「DELLモデル」でプロセスイノベーションを起こしましたが、多くのPCメーカも追随し、PC市場の構造は大きくは変わりませんでした。

この期間のNECのPC事業のSWOTを整理すると、以下の通りとなります。

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まとめ

今回、NECのPC事業の歴史とともに、全盛期であった1980年代と事業合併直前の2000年代についてSWOT分析を簡単に整理しました。

大きな分岐点は、1995年にWindows95のリリースにより、アーキテクチャーがオープン化/統一化されたことです。

これにより、企業での導入も加速しましたが、一方では国内外の多くのPCメーカが参入し、多種多様のPCが販売され、競争は激しくなり低価格の一途をたどります。

1997年にNECも従来の「PC9801シリーズ」から「DOS-V」機へ移行しましたが、従来のNECの「強み」を必ずしも継続できたわけでなく、むしろ移行時の障壁になった可能性もあります。

従来から培ってきたNECブランド力は大きかったものの、築いてきた資産をいかに「DOS-V」機へ移行するか、大きな決断であったと想像します。

そして2011年には、NECのPC事業はレノボと合併し、連結対象から外れることとなりました。

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このように、NECのPC事業の歴史では、外部環境の変化によりSWOT分析も変わっています。

  • ・外部環境の変化に対応して、
    内部環境を変化させるのか、または内部環境に基づく有効策を考えるのか
  • ・内部環境の特徴を考慮して、
    外部環境を変化/創造するのか、または外部環境の中で狙いを特定するのか

市場や商品(サービス)の特性、自社の保有する経営資源によって、どちらを先行させるのかは変わってきます。

市場変化の激しい現在においては、同時並行的に迅速に対応していくことが理想かもしれません。

なお、SWOT分析のようなフレームワークに頼りすぎると、既存の延長線の戦略しか考えられないという批判もありますが、

  • ・外部環境及び環境変化の要因を掘り下げ、分析の視点を広げ、対応するための戦略を考える。
  • ・内部環境を整理し、根底にある「強み」や「弱み」を明らかにして、対応するための戦略を考える。

SWOT分析は、使い方次第で有効なフレームワークとなりますし、SWOT分析に続いてクロス分析やBSC(バランス・スコア・カード)及びビジネスモデル・キャンパスへつなげて、戦略を具体化することもできます。

参考:PC市場及びNECのPCの主な歴史

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1976年 TK-80発売
→ マイコンのトレーニングキットとして販売(当時:88,500円)

1979年 PC8001発売

1981年 下位PC6001と上位PC8801を展開
量産体制開始 = プロセスイノベーション
IBMが国内に参入
= アーキテクチャのオープン化を推進するものの確立できず

1982年 PC9800シリーズ発売 → 国内シェア80%超
(1984年 米アップルコンピュータからMacintosh発売)
(1990年 日本IBMが「IBM DOS J4.0/V」をリリース(DOS/V機)

1989年 NEC初のノート型パソコン「PC-9801N」を発売(約200,000円)

1992年 Windows3.1によりOSの統一
→ 国内外メーカーが製品展開

1995年 Windows95によりハードウェアガイド統一
→ モジュール化、本格的なコモディティ化

1996年 DELLがインターネットによるダイレクト販売
= プロセスイノベーション

1997年 PC98NXシリーズ
→ マイクロソフト社ハードウェアデザインガイド準拠、DOS/Vへ移行

2004年 米IBMがパーソナルコンピュータ事業をレノボに売却

2011年 レノボ社と合併、NECレノボ・ジャパングループ発足

参考:NECのパソコンの歴史関係

こんなにちがう!むかしのパソコンと今のパソコン
NEC キッズ・テクノロジー・ワールド NEC

NECパソコンの歴史
121ware.com

2015.1.13 SWOT分析は、経営や事業の戦略を立案するための有効なフレームワーク

2015.1.14 SWOT分析の例、NECのPC事業における1980年代と2000年代の比較

2015.1.16 SWOT分析のあり方、「擦り合わせ型」と「モジュール型」

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