書籍 デジタルトランスフォーメーションの実際/ベイカレント・コンサルティング(著)

書籍 デジタルトランスフォーメーションの実際/ベイカレント・コンサルティング(著)

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3ステップで実現する
デジタルトランスフォーメーションの実際
Digital Transformation

ベイカレント・コンサルティング(著)
出版社:日経BP社(2017/12/8)
Amazon.co.jp:デジタルトランスフォーメーションの実際

  • デジタル対応に向けて待ったなし!
    日本企業に対する新たな処方箋

    日米の先行事例を徹底分析!
    デジタル化の落とし穴と成功への具体策を示す

関連書籍
 2018年01月25日 マイケル・ウェイド『対デジタル・ディスラプター戦略』日本経済新聞出版社(2017/10/24)

本書は、戦略から業務・ITまでをカバーする日系総合コンサルティングファームの株式会社ベイカレント・コンサルティングが、日本企業がデジタルトランスフォーメーションを推進するうえで有効な基本戦略について提言した一冊です。

「デジタルパッチ」「デジタルインテグレーション」「デジタルトランスフォーメーションの完遂」という3つから成る戦略(ステップ)を示し、日本企業がどのようにデジタル戦略を進めていくべきかを解りやすく解説していますので、経営者や事業企画を担当されている方々にとって、今後の事業の方向性を考えるうえで参考になります。

デジタルトランスフォーメーションとは、会社全体として考えなければならない課題だ。

ビジネスモデルの変革が必要となるかもしれないし、そのためにオペレーションやITを大きく変えていく必要もある。

そして何よりも重要なのは、組織風土や人材の変革である。

(略)

デジタルトランスフォーメーションを一気呵成に進めるのは簡単ではない。

先行事例として著名なゼネラル・エレクトリック(GE)など欧米企業の流儀を模倣しても、日本企業では難しい。

日本企業らしいやり方は何かを考えたのが、本書を執筆するきっかけである。

本書は5章で構成されています。

  • ・第1章では、デジタルの時代には、あらゆる産業でディスラプション(破壊)が進行している状況を示し、企業がどのような価値を提供していくのかを見定め、実行フェーズに向けたロードマップを描くべきタイミングに来ていることを解説しています。
  • ・第2章では、デジタル組織を設立することの重要性、そのあり方や形態を整理し、デジタルトランスフォーメーション実現に向けた方向性を定め、適切なやり方で実行することの重要性を解いています。
  • ・第3章では、近年の著者らの分析に基づいて、日本企業でデジタルトランスフォーメーションの実現を困難にしている障壁を掘り下げています。
  • ・第4章では、デジタルトランスフォーメーションとは何かを定義したうえで、実現を困難にしている障壁を克服し、日本企業が進むべき方向について、3つのステップを提言しています。
  • ・第5章では、企業が第1ステップから段階的にデジタルトランスフォーメーションに取り組むうえでの具体的なアプローチについて解説しています。

デジタルトトランスフォーメーション

デジタルトランスフォーメーション = デジタルによる事業構造の変革

  • ・既存の事業から全く離れた新しい事業やサービスを立ち上げることだけが目的ではなく、デジタル技術を活用して既存の事業を強化することも重要である。
  • ・会社全体として考えなければならない課題である。
    ビジネスモデルの変革、オペレーションやITを大きく変えていく必要もあり、組織風土や人材の変革が何よりも重要である。

今や、調査・研究の段階から実行フェーズへ移っている。

多くの企業が、デジタル技術を活用した新しい事業やサービスに本腰を入れて取り組みだしている。

日本企業の得意分野を中心にデジタル技術を活用し、成功体験を重ねて自社に最適な方法を考えていく。

そのためには、自社の強みを明確にし、その中でデジタル技術をどのように活用するかが鍵となる。

デジタル(専門)組織の必然性

既存の組織や仕事のやり方から離れて検討することが必要であり、既存の事業組織とは別に新しい組織を立ち上げ、その組織が主導する形でデジタル戦略を推進した方が成功する確率は高くなる。

デジタル組織のミッション

  • ・全社のデジタルトランスフォーメーションをリードする役割を担う。
  • ・外部環境を観察・分析し、既存事業の実力を見極め、企業としてのデジタル化の方向性を見定める。
  • ・社内に情報を発信しながら、先頭に立って誘導・推進する。
  • ・一気呵成に変革を進めようとはしない。
  • ・社内でのコミュニケーションと連携がとれる組織をつくる。

デジタル組織の役割

  • ・新しい技術の本質を理解する。
  • ・新しい技術を自社に取り込む。
  • ・社内のデジタル感度を上げる。

デジタル組織の形態

  • ・全社横断型組織(デジタル戦略組織)
  • ・事業特化型組織
  • ・デジタルイノベーション型組織
  • ・機能特化型組織

デジタル組織の要員構成

  • ・CDO(最高デジタル責任者)
  • ・ビジネスアーキテクト
  • ・オペレーションデザイナー
  • ・スーパーエンジニア

デジタルトランスフォーメーションの構成要素

ビジネスモデルの再構築

ゴールは、サービスの提供方法と収益モデルを転換すること。

短期的な成果を追求するだけではなく、中長期的な視点でサービスを考える。

顧客が求める要件に応じて、「便利さ」「楽しさ」「安心感」などの価値を提供する。

収益構造の転換:デジタル技術を使って、顧客に新たな経験価値を訴求する。

オペレーションの再構築

サービスを継続的に提供する業務プロセスや運営体制をつくり上げ、オペレーションに新しい技術を紐付けて付加価値の高いサービスを提供することで競争優位に立つ。

業務生産性の飛躍的向上:新技術を適用し、人手が介在しないプロセス

ITの再構築

AIやIOTなどの新しい技術を採用するのと同時に、レガシー資産であるシステムを整理する。

IT部門は、IT資産がますます複雑化することを見据え、既存のIT資産を効率化するという「守り」に注力せざるを得ない。

意識改革と現実的な打ち手により、IT部門の「守り」の部分の負担を軽減し、デジタル組織と連携してリソースを「攻め」に転じる。

役割とリソース配分の見直し

  • ・新技術の採用
  • ・レガシー資産の整理
  • ・ガバナンス強化
  • ・IT部門の役割再定義
組織・人材の変革

既存の事業と切り離したデジタル組織を設立し、CDO(最高デジタル責任者)を配置し、デジタル化を担う人材の登用・育成していく。

デジタル組織が機能するように、会社全体として支援する体制をつくり上げる。

経営が全社にメッセージを発信し、本気で改革を進めるという強い意志を示す。

経営と既存の事業部門とが密にコミュニケーションをとることに加え、関係者全員の意識を変え、採用や育成方法を変える。

変革リーダー、多様性(ダイバーシティ)、新しいパラダイムへの適応

デジタルトランスフォーメーションの進化(ステップ)

1.デジタルパッチ:既存事業のデジタル化

既存のサービスやオペレーションに対して、適用できるデジタル技術を実践する。

顧客が普段から使っているデジタル環境に、自社のサービスを適用したり、現状の業務の生産性を向上したりする取り組み。

有効に機能するデジタル組織

  • ・事業特化型組織
  • ・機能特化型組織

企業の視点

  • ・顧客のデジタル空間に合わせたサービスを提供する。
  • ・社内の業務生産性を向上する。

顧客の視点

  • ・自分が普段から使っているデジタル空間でサービスを受ける。
2.デジタルインテグレーション

デジタル技術を活用して、全社をあげて顧客を囲い込んだサービスを提供したり、リアルとデジタルに関係なく顧客体験に訴求したりする。

ターゲットである顧客を決め、そのペルソナを描き、カスタマージャーニーを想起する。

  • ・なぜ顧客は、他社ではなく自社の製品・サービスを利用しているのか
  • ・どのようにデジタル技術を活用すれば、より便利に使ってもらえるか

ペルソナとは、企業が提供する製品・サービスにとって重要で象徴的なユーザモデルで、定量的データと定性的データで定義されるが、自分自身の経験や価値観だけに基づいて考えてしまわないように気を付けるべきである。

カスタマージャーニーとは、顧客が商品やサービスを知り、最終的に購入するまでのプロセスにおける「行動」「思考」「感情」であるが、提供する側の都合の良い論理にならないよう、経験を重ねるたびに変化することに留意しておくことが必要である。

「モノ売り」ではなく「コト売り」
「コト売り」では体験が訴求点となり、そのためには顧客の行動に沿ったサービスを提供する。

有効に機能するデジタル組織 = 全社で一貫性のあるサービスの実現

  • ・全社横断型組織がリーダシップ
  • ・その下で、事業特化型組織や機能特化型組織

企業の視点

  • ・カスタマーエクスペリエンスに合わせて、リアルとデジタルで一貫したサービスを提供する。

顧客の視点

  • ・自分の行動や業務を丸ごとサポートしてくれる。
3.デジタルトランスフォーメーション

ビジネスモデルを変革し、収益構造までを変える。それに関連する会社機能を全て変革する。

企業側から新たなカスタマーエクスペリエンスを提案する。

有効に機能するデジタル組織

  • ・デジタルトランスフォーメーション型組織

企業の視点

  • ・将来の事業環境を見すえて、収益構造を転換する。

顧客の視点

  • ・これまでの常識を超えた価値を提供してくれる。

まずは経営層や中間管理職が、自ら進んで考え方や行動を変えていかなければならない。

今の事業で満足せず、いかにデジタル技術に適用するかを率先して考えるのだ。

世界でデジタル化が進む今は、企業変革を進めるためには絶好の機会だ。

(略)

何度も書くが、日本企業の底力は素晴らしいと改めて実感する。

問題点があっても、何とか解決してきた。

どうやればもっとうまくやれるかといった努力も重ねてきた。

そして今、革新的デジタルサービスを立ち上げ始めた企業も登場している。

まとめ(私見)

本書には、株式会社ベイカレント・コンサルティングが日本企業や米国企業の事例を分析し、日本企業のデジタル戦略の問題点を具体的に提示した上で、日本企業が即座に実践できるデジタル戦略として「3ステップで実現するデジタルトランスフォーメーション」を提案しています。

難しいIT用語やITツールや手法の紹介ではなく、経営戦略や組織面の施策を解説しており、全体を通して読みやすい構成になっています。

これは、著者らがこれまでのコンサルティングの中で苦労されてきたことであり、その結果として支援されたクライアント企業が内容を理解し、成果を出してきたものと想像できます。

特に、デジタル組織の形態においては、4つの形態それぞれに当てはまりそうな事象を具体的にあげられていますので、どの組織が自社にとって有効かを適切に判断することができます。

また、第5章では、デジタル戦略を具体化する際の経営やマーケティング及び技術などの観点から、考慮すべき9つのアプローチを詳細に解説しています。

このアプローチを自社に当てはめながら順次実践していけば、デジタルトランスフォーメーションに段階的に取り組んでいくことができそうです。

なお、従来の経営を変革し、デジタル戦略を実現するためにも、「カサンドラ」社員の声を聞いたり、登用することも必要ではないかと思います。

「カサンドラ」とは、ギリシャ神話に出てくる女王で、未来を見る能力があり、トロイが滅亡することを予言したことで知られています。

現在の企業内に置き換えれば、デジタル空間で遊ぶのが得意であったり、ある領域で並外れた専門性を持っていたりする社員で、組織内では主流ではなく、風変りな人という印象を持たれているかもしれません。

従来の企業経営では、これまでの事業環境で蓄積した知識や経験及び実績で、組織における地位が決まっている場合が多いと思います。

そして、その延長で経営企画やR&D機能が存在し、今後の経営戦略を立案しているのが実態ではないでしょうか。

しかし、産業構造が根本から変化し、ヒト・モノ・カネなどの経営資源がデジタルに置き換わろうとしている現在においては、「カサンドラ」の意見を聞き、内容や根本を目利きし、組み合わせてくことも必要ではないかと思います。

そのためにも、経営トップ層が自らデジタルに触れ、その有効性を実感しないと理解できないのかもしれません。

目次

はじめに

第1章 加速するデジタル化のトレンド

1.まだまだ続く技術革新

2.デジタル環境が当たり前の消費者

3.モノからコトへ、減速する所有欲求

4.新たな競合環境

第2章 続々と設置される企業のデジタル組織

1.なぜデジタル組織が必要なのか

2.デジタル組織の役割

3.デジタル組織の4形態

4.デジタル組織の要員構成

5.組織を機能させるコツ

6.IT部門はどう関与すべきか

第4章 日本企業のデジタル戦略の問題点

1.明確にならない「新しい事業の柱」

2.デジタル化を指導できる人材が不足

3.道標なきシリコンバレー崇拝

4.間違いだらけのカスタマーエクスペリエンス

5.ダイバーシティを容認できない企業風土

6.経営戦略のジレンマ

7.変えられないステークホルダーの常識

第4章 日本企業が実行すべきデジタル戦略とは

1.デジタルトランスフォーメーションの構成要素

2.デジタルトランスフォーメーションの3つのステップ

3.デジタルパッチ(既存事業のデジタル化)の実際

4.デジタルインテグレーションの実際

第5章 デジタル化を成功させる9のアプローチ

1.既存組織のデジタル化

2.デジタル組織自身を活性化させる

3.”共通言語”による一体化

4.技術への積極的アプローチ

5.バリューチェーンの点検

6.迅速な意思決定と実行

7.デジタル時代の人材マネジメント

8.デジタルでどう遊ぶのか

9.やり遂げる経営の決意

おわりに

参考

株式会社ベイカレント・コンサルティング
1998年創業、本社:東京都港区
戦略から業務・ITまでをカバーする日系総合コンサルティングファーム。
ハイテク、通信、IT、金融、製造、流通など幅広い業界で日本を代表する企業を総合的に支援している。

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